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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(オ)315号 判決 1954年7月16日

主文

原判決中

「第一審被告坂上善平に対する第一審原告のその余の請求を棄却する」とある部分を破棄し本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

原審は、上告人と被上告人との間に昭和一九年八月二二日締結された本件和解契約は耕作の目的に供せられていた農地の所有権移転を内容とするものであり、このような契約をなすについは、当時施行されていた臨時農地等管理令七条ノ二の規定に従い、地方長官の許可を受けなければならないばかりでなく、地方長官の許可により契約はその効力を生ずるものである。そして右農地の所有権移転に関し地方長官の許可を得なかつたことは、原告(上告人)の主張自体により明らかであるから、本件契約はこの部分に関する限り無効であると判示し右和解契約に基づく所有権取得を理由とする上告人の主張のすべてを排斥したのである。しかしながら臨時農地等管理令施行当時の農地所有権の移動に付ての地方長官の許可は、農地を耕地として確保するための取締の目的をもつて設けられた規定であると解すべきであるから、農地の譲渡契約によつてその所有権を取得する者が、地方長官の許可を受けなかつたからといつてそれだけの理由でその契約に基づく所有権の取得が効力を生じ得ないものと解すべきでない(昭和二七年(オ)第一一五三号同二八年九月一五日第三小法廷判決集七巻九号参照)。さればこれと異なる見解に立ち臨時農地等管理令七条ノ二の地方長官の許可を有効要件となし、上告人の右契約に基づく請求を排斥した部分につき原判決は失当であり到底破毀を免れない。

よつて民訴四〇七条により裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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